損失を取り戻そうとしない ―― 最初の失敗から学んだこと
投資を8年続けてきて、自分なりのルールがいくつかあります。その中で、いちばん大切にしているものを挙げるなら、「損失を取り戻そうとしない」です。
これは、頭で考えて決めたルールではありません。投資をはじめて一番最初に、痛い思いをして学んだことです。今でもよく覚えています。
はじめて株を買った日のことです。
少額で買える銘柄を、市場が開くと同時に、よく考えもせずに買いました。そして一時間ほどで売りました。すると、1万円近い利益が出たのです。
一日の食費の足しにでもなればいい。そのくらいの気持ちだったわたしには、飛び上がるほどうれしい出来事でした。こんなに簡単に、と思いました。
問題は次の日です。
味をしめたわたしは、同じ銘柄で、まったく同じことをしようとしました。ところがその日は、買った直後から株価が下がりはじめたのです。目の前で、損失がどんどん膨らんでいきました。
焦ったわたしは、迷う間もなく売りのボタンを押していました。前の日に得た利益を、あっという間に超える損失が確定しました。
半ばパニックになりながら、わたしは考えました。下げ止まったところで、もう一度同じ銘柄を買えば取り戻せるのではないか、と。
ところが、買おうとすると画面に「差金決済とみなされ、その日のうちには売れません」という知らせが出ました。同じ資金で、同じ日に、同じ銘柄を売ったり買ったりすることはできない、という決まりがあるのです。当時のわたしは、株を持ったまま次の日へ持ち越すことが、とにかく怖くてたまりませんでした。売れなくなるのは困る。そう思って、その銘柄を買い直すのはあきらめました。
それでも、どうしても損を取り戻したかった。わたしは、別の値上がりしている銘柄を、慌てて成り行きで買いました。すると、それもまた、買った直後からすごい勢いで下がっていったのです。
また怖くなって、慌てて売りました。損失は、さらに膨らみました。
そのときのわたしは、手が震えていました。きっと顔も青ざめていたと思います。「わたしは株に向いていない」。そう思って、ひどく落ち込みました。
今は、損が出た日はパソコンを閉じて、めめを撫でて気持ちを切り替えます。
後で調べて分かったのですが、わたしが選んでいたのは「仕手株」と呼ばれる、値動きの激しい銘柄でした。一部の人たちの動きで、株価が大きく上下するものです。初心者が手を出すには、いちばん危ないたぐいのものでした。
なぜ失敗したのか、原因ははっきりしています。勉強が足りていなかったこと。なるべく少ない金額で、という恐る恐るの気持ち。前日の成功で生まれた欲。そして、損を見たときのパニック。これだけ揃えば、うまくいかないのは当たり前でした。
この最初の失敗から、わたしが学んだことは2つあります。
ひとつは、ルールを持たずに相場に向かうのは、とても危ないということ。なんとなく、その場の勢いで売り買いしていると、いつか必ず痛い目を見ます。
もうひとつが、この記事の題でもある「損失を取り戻そうとしない」です。あの日のわたしは、損を取り戻そうと焦るほど、傷を深くしていきました。マイナスを見ると、人は冷静ではいられなくなります。すぐに取り返そうとして動くと、たいてい、もっと悪い結果になります。
だから今のわたしは、損が出た日は、いったんそこで手を止めます。取り戻そうとして次の取引に走るのではなく、一度離れて、頭を冷やす。損は損として受け入れて、また落ち着いたときに考える。そう決めています。
もうひとつ、年月を重ねるうちに、わたし自身が変わったこともあります。はじめたばかりのころは、その日一日で勝ったか負けたかばかりを気にしていました。あの失敗も、目の前の一日しか見えていなかったから起きたのだと思います。それが今では、一週間、ひと月、一年、そして投資をはじめてからの全体で、どうだったか。だんだんと、長い目で見られるようになってきました。一日の上がり下がりは、長い時間の中の小さな波にすぎません。そう思えるようになって、ようやく、慌てずにいられるようになった気がします。
最初に痛い目にあったことで、ルールを持つことの大切さに気づけました。今となっては、あの失敗があってよかったとさえ思います。
これは、あくまでわたし自身のルールです。誰かにすすめるものではありません。ただ、もし同じように投資をはじめたばかりで、損を取り戻そうと焦った経験のある方がいたら、少しだけ立ち止まるきっかけになればうれしいです。
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